1 城井あげは
連合宇宙暦99年―――。
今、この世界はさまざまな脅威に脅かされ続けている。
ロボットや人間達によるテロ行為、外宇宙や異世界からの生物の来襲など・・・。
その脅威を抱える地球上で、人々は生活を行っている。
平和に人が暮らせた時代とは様変わりしており、いつ脅威の巻き起こす被害に飲まれるのか・・・と、恐怖を抱えながらの生活である。
そのような脅威からは無縁とも思われるような、人々が呑気に暮らす地帯でも例外ではないのだ。
その証拠に、かつて平和の国と呼ばれた列島でも震撼は起きている。
日本――――。
連合宇宙暦99年を迎えた中、「EI−01」の落下や謎の生物の来襲など、さまざまな戦争被害にあっている国のひとつ。
しかし、新・国際連合やそれの下にある組織によって、恐怖に脅かされながらも平和を守られ続けている。
その日本の真ん中のほうに位置する、ひっそりとした場所に「北城市」が存在する。
北城市―――。
現在の時刻は16時45分。季節は春の終わりを告げようとしている頃。
場所は『西宮女子高等学校』。
放課後を迎えたらしく、学校の玄関から女子生徒たちが次々と、学校靴を履いて外を出る。
女子生徒たちが思い思いの会話を交わしながら門をくぐっていくその様子は、平和が脅かされている国の傘下とは思えないほどほっとする光景であろう。
その女子生徒の中に、一人だけひときわ目立った髪の色をしている生徒の姿がいた。
「ふう・・・今日は体育があって疲れたなぁ〜っと。」
軽く背伸びをしながらつぶやく少女。
彼女の名は城井あげは。
普通の女子高に通い、普通の暮らしをしているごく普通の少女。
普通には見えないところをしいて言えば、端麗な容姿にピンクの鮮やかな色をした髪と、多少日本人離れしているところである。
ご機嫌な表情で鼻歌を口ずさみながら、学校の門をくぐろうとしたときに、彼女の背中に呼び止める声が響いた。
「あげはちゃ〜〜〜〜〜〜ん!!」
「にゃ?」
あげはが振り向くと、彼女を呼び止めた一人の女子生徒が駆け足で彼女の元に駆け寄ってきた。
「あ、さやちゃん!」
「はあ、はあ・・・。よかったーまだ帰ってなくて。バス停まで一緒に帰ろ?」
「うん、いいよー!」
二人は笑いながら並んで門をくぐった。
あげはを呼び止めた女子生徒の名は、弓さやか。あげはと同じクラスの同級生である。
二人はバス停までの道を、たわいもない会話を楽しみながら歩くのが楽しみの一つでもある。
今日も笑顔でその会話を交わしていた。
「ねえ、さやちゃんは最近どう?勉強の調子とか。」
「それがさー、高校2年ともなると難しくなって大変よぉ。これじゃ中間試験やばいかもなぁ。」
「あたしも!特に数学が難しくてさー。頭ん中ぐるんぐるんだよー。」
「ホントよねぇ。ウチの先生もうちょっと簡単な問題出してくれればいいのにさ。」
今日は学校での勉強の話をしているようだ。
このように、なんでもない会話をのんびり楽しみながら、一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
しかし、さやかがふっと思い出すように話題を変えた。
「あのさ、あげはちゃんて確かバイトしてるんだよね?」
「うん!今日もあるんだよ。」
「へー・・・大変じゃない?」
「全然!楽しいよー。自分の好きなことで精一杯仕事できるんだもん!」
そういって、自慢げに小さなガッツポーズを作るあげは。
彼女が通っているバイト―――。
それは『V・B・R(ベルベット・ブルー・ローズ)』というウェディングドレスの製作現場での仕事である。
キラキラな世界、女性の夢の世界が大好きな彼女にとっては、夢のような職場なのである。
「ふふっ、ホーントになんでも楽しむよね、あげはちゃんは。」
さやかがそういって、彼女に優しく笑いかけた。
あげははそれを見て、少し恥ずかしそうに照れ笑いをする。
そして、今度はあげはがさやかに話題を振った。
「そういえばさ、甲児君たちは元気!?」
「甲児君?ああー、そりゃもう。爆発すんじゃないかってくらい元気が有り余ってるわよ。」
甲児とは、さやかと付き合いの長い親友・・・いや、恋人とも言える関係のある中の人物。
ちょうど、二人と同い年の少年である。
あげはも、彼と何度か会っており、仲のいい関係になっている。
さやかがあげはと同じ女子高に通っているため、彼女達とは別の高校に通っているのだ。
「ふふっ、爆発って・・・。でも最近会ってないなぁ。久々にさやちゃんのところに遊びに行きたいなぁ。」
それを聞いたさやかは、少々表情に影を落としながら、
「うん・・・私も久々に遊びたいなぁ。」
そうつぶやいた。
そのあと、ふっと顔を上げてあげはを振り向き、ふっと穏やかな表情を見せる。
その表情の一連の流れに、あげはは少し違和感を覚えた。
「(・・・?一瞬さやちゃん、落ち込んだように見えたけど、気のせいかな・・・。)」
『どうしたの?』と聞こうとも思ったが、考えすぎだろうという思いが勝ち、その言葉を心に押さえ込んだ。
そういった会話を交わしているうちに、さやかが乗るバス停までたどり着いた。
「まだバス停は来てないようね・・・。」
そうつぶやいて、バス停そばのベンチに腰をかけるさやか。
「じゃ、また明日ね、あげはちゃん。」
「ちょ、ちょっとまって!」
あげははそういいながら、かばんの中から何かを取り出し、それをさやかの手を包むように渡した。
「あら、飴玉?」
「うん!今私がハマってるスイカの味の飴玉だよ。」
「スイカ・・・変わってるわねぇ。ふふっ、ありがと!」
さやかは珍しそうにその飴玉を見ながらも、くすっと笑って彼女に感謝の意を表した。
「じゃあね!さやちゃん!」
軽く大きな声でそういって、さやかのほうをむいて手を振りながら、あげははバス停を離れていった。
さやかは彼女をベンチを座りながわ見送る。ふしぎとその表情は笑顔の消えない明るいものだった。
「(ふふっ、あげはちゃんといると、なんだか元気をもらうのよね・・・。)」
心の中でそう思いながら、あげはにもらった飴玉の小さな封をあけ、口の中に放り入れた。
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