5 突然の要求




モンゴル―――。

抗争・襲来での被害は比較的少なく、長く平和が維持できている国。

それでも、更なる平和の維持に努めるための軍事施設は多数存在する。


その中のひとつが、「モンゴル軍中央軍事基地」。
名のとおり、モンゴルの中心に位置する山あいにある比較的小さな基地である。
約200名の軍事兵が所属していて、連合国家からの軍事兵器も多数そろっている。


モンゴル時間の朝5時。


その軍事基地の奥のほうにある来訪者専用の2階建ての建物。
その建物の2階の広い屋外のテラスに、一人の男が日が出かかっている明るい空を眺めて、佇んでいた。
髪は長く、黒いジャケットとその中に赤いシャツを着て、ジャケットの袖は捲り上げている。

「ふああああああ・・・。」

その男は、大きなあくびをして、眠そうに眼を腕でこすった。

「おはよう、デュオ。」

男の後ろから、彼と仲の良いらしき金髪の男が、肩をたたいて呼びかける。
両手には、二人分のコーヒーを持っていた。

「ああ・・・カトルか。」

「はい、眠気覚ましのコーヒー。デュオは砂糖2杯のミルク入りだったよね。」

「おお、サンキュー。」

二人は、お互いの好みに合ったコーヒーを、立ったまますすりながら話を交わす。

「デュオにしては今日は早起きだね。朝起きたらベッドにいなかったからちょっとびっくりしたよ。」

「まあ、なんとなくな。迎えが来るのも朝早いからと聞いていたからな。」

「・・・今回の任務は重要だからね。早く起きて構えてた方が良いかもね。」

「ま、気負いすぎても良くねぇけどな。」

「そうだね。ふふ。」

二人が軽く話をしている途中に、冷たい風がブオッと音を立てて吹き付けてきた。
デュオは、その寒さに身を震わせる。

「うへっ!!さっむいなぁ。」

「山の中だからね。そろそろ中に入ろうか。」

「おう、そうだな。」

二人は屋内に入ろうと出入り口に足を運ぶ。

その途中―――。二人は急に足を止めた。


「・・・・・ハッ!!」


パリーーーーーン!!!



二人は、ほぼ同時にコーヒーの入ってたティーカップから手を離してしまい、地面に落として割ってしまった。
しかし、二人はそのことを気にも留めなかった。
誰かがいる―――。二人は謎の気配を読み取っていた。
二人はその気配を感じる上空を見上げた。

そこには、風に揺れる白いマントをして、紫の服を着ており、緑色の顔と体を―――。
そう。あげはを攫って来た謎の男がそこにいた。
肩にあげはを抱え、右手には鳴き疲れて元気がなくなったおんぷがしっかりとつかまれている。

「だ、誰だお前は!?」

デュオは、男に怒鳴るように問いかけた。

謎の男は、スーッとゆっくり降りて、テラスの地面に足をついた。
そして、二人の目の前へと歩いて近づいた。
二人は、警戒するように拳を自分の前に出して構えている。

男は、二人に質問をする。

「・・・青い戦艦に乗る二人だな・・・?」

「な・・・!?なぜそれを知ってるんだ!?」

デュオは驚きを隠せなかった。
なぜなら、先ほどの二人の会話でもやり取りあったように、二人がその「青い戦艦」に乗るのは重要な任務をこなすためであったからだ。
重要な任務は、他言にもれぬようこなすもの。しかし、二人はその決まりをきちんと守り、決して他人に他言はしていないのだ。

「心配するな。お前らがどんな仕事を行っているかまでは俺も知らん。俺がそのことを誰かに話したところで得などない。」

「あ、あなたは・・・いったい何者なんですか?」

カトルは、恐ろしく冷静沈着なその男にそう問いただしたが、男はそれに答えずに肩に乗せていたあげはを担ぎ下ろし、カトルにもたれかからせるように渡した。
そして、脇に挟んでいた剣も一緒に投げ渡す。

「わっ・・・とと。・・・この女性は・・・?」

男は、あげはをピッと指を指す。

「その女は、戦わざるを得なくなった女だ。お前らか、もしくは戦艦の乗員なら戦える場所を知っているだろ。
 そいつを、戦える場所へと連れて行ってほしい。」

「な・・・!?」

男はそう彼らに依頼したが、デュオ達が納得できるはずはなかった。

「ちょ、ちょっと待てよ!いくらなんでも不自然すぎるぜ!
 こいつパジャマを着てるじゃねえか!しかも気絶している!
 これは単に『連れてきた』訳じゃないな!?俺の想像だが、この女は戦いなんか望んでないはず!そうだろ!」

そう怒鳴り散らしたデュオに、男は右手でつかんだおんぷとズボンにしまっていた本をデュオに押し付けるように引き渡した。
そして、デュオの問いに冷静さを崩さずに答えた。

「仕方がなかった・・・としか言いようがないな。俺は一番最良の処置をとったつもりだ。」

「仕方がない!?最良だと!?これのどこが・・・!!」

「デュオ!落ち着いて!!」

カトルは、怒りで熱くなるデュオをなだめるように大声で引き止めた。

「・・・いきなりの状況過ぎて訳が分からない。
 あなたがこの状況を最良としたのなら、そこに何か理由があるはずです。その理由を教えてください。」

カトルは、男の冷静さに惑わされぬよう冷静な態度で返すように、男にそう質問を投げかけた。
男は、彼らに背を向けてカトルの問いに答える。

「・・・・・・俺が言う必要はない。その女を見ていれば分かることだ。
 ごく近いうちに、その女の元にその答えが向かう。そしてそいつの定めが示されるだろう。
 それが明確に示された頃に、俺もお前らと共に行動しよう。
 そのときに、2人分の依頼料金を払うと戦艦の主に伝えておいてくれ。」

そういい残し終わると、男は二人の元を離れるように歩いていった。
デュオは、それを引き止めて再び質問を投げかけた。

「ちょっと待った!お前は一体誰なんだ!?」

男は、小声でぼそりと・・・

「ピッコロ・・・。」





そう言い残し、西の空へと閃光のような速さで飛び立っていった。

「ピッコロ・・・ね。ったく、滅茶苦茶な事押し付けていきやがったな・・・。」

半ば呆れ顔で、愚痴をこぼすデュオ。
一方カトルは、何か疑問を持ったように顔をしかめていた。

「ピッコロ・・・?聞いたことあるような・・・。」

しかし、その疑問を引きずる余裕はなかった。
あげはを抱えてることに気づいたカトルは、彼女の足を腕で抱えるようにして持ち上げる。

「体が冷たい・・・。強風にさらされたのか。
 デュオ!その鳥も冷たい風を受けて元気がないはずだ!ストーブで暖めてあげて!
 僕はこの子をベッドに運ぶから!」

「ホントだ・・・よし、分かった!おい、元気出せよ。今あっためてやるから!」

「キュ、キュ〜〜〜〜〜〜〜・・・。」

おんぷはデュオの問い掛けに力なく返事をした。
二人は、駆け足で屋内に入り、カトルが示した行動をそれぞれに行った。





一方、謎の男ピッコロは、軍事基地から数十キロはなれたところでその体を止めていた。

「(・・・あいつが、本格的に戦いに巻き込まれたときには、同時に戦争激化が加速を増すきっかけとなるだろう。
  そうなれば、さすがの俺でも・・・。
  ふ・・・孫。俺が言わずとも、お前もそろそろ動き出す時だろうな・・・。)」

そう心で語り、再び西へと飛び立った。




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