当たり屋
(ドーン!!)
瀧澤「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
大山「うわー…やっちゃた…人轢いちゃったよ」
瀧澤「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
大山「でもおかしいな……今まだ車発進してなかったんだけど……仕方ない降りるか」
(ガチャ)
大山「あの……すいません」
瀧澤「てめぇぇ!!いてぇじゃねぇかぁぁぁ!!このオトシマエ…」
大山「……あれ?」
瀧澤「……おや?」
大山「………………親父?」
瀧澤「…………(サングラスとパンチパーマのヅラをとって)ひでゆき!」
大山「親父!!なにしてんのこんなとこで!そんでヅラ?!」
瀧澤「ひでゆきー。久しぶりだなぁー!」
大山「うん久しぶりだけどさ。なにしてんの?」
瀧澤「え?……それ父さんに聞いてる?」
大山「当り前だよ。今俺と親父しかいないじゃんか」
瀧澤「いや、なにしてるってわけでもないっていうかさ」
大山「わけでもなくないっつーの。なんか凄いドスの効いた声出してたじゃん今」
瀧澤「……それ本当に父さんだった?」
大山「なんだよさっきからその手法!ごまかすの下手くそ過ぎるだろ!今完全に当たり屋だったよね?!」
瀧澤「…ひでゆき……正直に言おう、父さんは当たり屋だ!」
大山「おせーよ!もう自分で暴いたわ!当たり屋って……えー?親父何してんだよ!」
瀧澤「ひでゆき。父さんな……この不況で、勤めてた会社が去年潰れたんだ」
大山「ええ?」
瀧澤「辛かった…。でもな、お陰で改めて自分を見つめなおすことができたんだ。そして思った。本当にやりたい仕事に就こうって」
大山「やりたい仕事?!親父のやりたい仕事って当たり屋なのかよ!」
瀧澤「あぁ!」
大山「爽やかに言い切りやがった!」
瀧澤「こう見えて学生時代は、結構本気で当たり屋やってたんだぞ。ふふん」
大山「ふふんじゃねぇよ!自慢できる要素一個もないわ、今の話!」
瀧澤「あの頃は若かった。こう、やり場のない青春のモヤモヤみたいなのを、車にぶつけてたんだろうなぁ」
大山「完全にぶつけどころ間違えてるよ!青春の1ページみたいに振り返ってんなよ!」
瀧澤「思えば母さんとの出会いも、父さんが母さんの車にアタリングしたのがきっかけだったな」
大山「そんな出会いだったのかよ!そんで当たり屋を動詞形にすんのやめろよな!」
瀧澤「懐かしいなぁ〜母さんは白いカローラ乗っててさ」
大山「車種についての情報いらねぇよ……」
瀧澤「乗り心地最高だったなぁ……カローラも、母さんもな!」
大山「うわ最低!人としても父親としても最低だよ!その時轢かれて死ねば良かったのに!
ていうか俺超嫌だよ!実の父親が当たり屋だなんて!」
瀧澤「大丈夫だひでゆき。父さんは、止まってる車専門の当たり屋だ!大けがは一度も無いぞ!」
大山「……親父のからだ心配してるわけじゃねぇよ!何都合のいい解釈してんだ!
つーか止まってる車専門てなんだよ!カッコ悪いにも程があるだろ!」
瀧澤「止まってる車専門の当たり屋を舐めるな!車のボディにしこたま腰近辺をぶつけるんだぞ!」
大山「しこたまぶつけんなよ!予想通りのカッコ悪さじゃねーか!」
瀧澤「ふふん。これを見てもそんな口が叩けるかな…お前の車のボディを見てみろ!」
大山「……うわー!!めっちゃへこんでるぅ!!」
瀧澤「どうだ、父さんの仕事の証しだぞ!」
大山「親父ふざけんなよ!何してくれてんだよ!新車なのに!」
瀧澤「ひでゆき!これが、働くということだ!!」
大山「……なんでカッコつけて言ったんだよ!大体俺とっくに働いてるよ!そういうのはもっと若い時に言えよ」
瀧澤「よし、じゃあちょっと仕事モードに入るから」
大山「はぁ?」
瀧澤「…おいワレ!このオトシマエどうつけるつもりじゃワレ!」
大山「いきなり口調変わった!ていうか被害者完全にこっちだろ!」
瀧澤「ワシの二本足完全にイカレてもうたやないかワレ!」
大山「なんで腰近辺打ってんのに足がイカレてんだよ!イカレてんのはお前の頭だ!」
瀧澤「おいワレ!誰に向かって、ワレ、口きいとんじゃワレ!ワレ!」
大山「ワレワレうるせぇよ!!なんで下手くそな関西弁で攻めてくんだよ!うざったいだけだわ!」
瀧澤「治療費請求させてもらうで!」
大山「こっちこそ修理代請求するわ!つーか実の息子から金巻き上げようとしてんじゃねぇよ!」
瀧澤「息子とか関係ないわ!たまたま見つけたベンツに、たまたま息子が乗ってた。それだけのことじゃい!」
大山「息子だぞ!めちゃくちゃ関係あるだろ!そんなんだからお袋に愛想尽かされちゃうんだろ!」
瀧澤「…………はふん」
大山「……なんだよその印象的な溜息は…」
瀧澤「……母さん、元気か?」
大山「急に戻りやがって……あぁ。元気だよ」
瀧澤「……仕事してるのか?」
大山「銀行で働き始めたよ」
瀧澤「給料はどれくらい…?」
大山「は?……手取り20万くらい?」
瀧澤「ふーん。お前は?なんかベンツなんか乗っちゃってさ」
大山「俺は一応、起業して、今社長やってるよ」
瀧澤「ほう…………よし、じゃあ諸々含めて300万で」
大山「こっちの収入から査定してんじゃねぇよ!お前になんかビタ一文払わねぇよ!」
瀧澤「じゃあ300万はいいよ!」
大山「なんでちょっとキレてんだよてめぇ…」
瀧澤「じゃあ代わりに母さんに会わせろよ!」
大山「は?」
瀧澤「母さんに会わせて、そんで、再婚させろよ!」
大山「すごい予想外の申し込み来た!ムリムリムリムリ!」
瀧澤「大丈夫、収入のことなら心配するな!今度から、外車専門にぶつかるから!」
大山「そんな心配してねぇよ!そうじゃなくてムリムリムリ!母さん再婚するから!」
瀧澤「…………は?」
大山「再婚するんだよ、母さん。なんか、勤めてる銀行の部長さんと」
瀧澤「…………マジで?」
大山「マジ」
瀧澤「……………車種は?」
大山「え?」
瀧澤「車種は?そいつの車種は?」
大山「フェラーリ」
瀧澤「………………ちきしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!フェラーリのばかやろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
(ポッキーン!!)
大山「だぁぁぁ!!俺のドアミラー折るなぁぁぁぁ!!!!!」
(走り去る瀧澤)
大山「あいつなんだよマジで!…………でもまさか…親父が…………………………同業者だなんて。血は争えないのか…………」
(大山、サングラスとパンチパーマのヅラを被る)
大山「さぁて…………いっちょ今日も稼いじゃろうかのう!!」
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