キャンプ場殺人事件




瀧澤「おい……!その手を離せ…!」

大山「それ以上近づくな!!一歩でも近づいたら…美佐子の命は無いと思え!」

瀧澤「大山……美佐子はお前のフィアンセじゃないか…」

大山「うるさい!俺は復讐に生きる男なのさ…」

瀧澤「くそ…!それにしても……お前が犯人だったなんてな…」

大山「くくく。さしものお前も、気づくのが遅かったようだな…」

瀧澤「…仲良し大学生6人組での楽しいキャンプ、その一日目の夜に、皆の目前で滝つぼに落ちていったお前がまだ生きていて…
    しかもこの血塗られた殺人事件の真犯人だったなんて……意外性という意味では、満点だな…」

大山「くくく。そうだろうそうだろう…俺もこのトリックを思いついた時は『これ、いけるな』と思ったぜ…」

瀧澤「……ひとつめの殺人…俺たちがロッジでUNOをしていたその最中…トイレに行った加藤が…肉切り包丁で胸を刺され…殺されていた…」

大山「くくく…加藤のやつ…泣きながら命乞いをしてやがったぜ…」

瀧澤「くそ…っ!なぜあんなにいい奴が殺されなくちゃいけないんだ…!」

大山「…………あれ?ちょっと待って…」

瀧澤「なんだ連続殺人犯!」

大山「いや…………UNO?」

瀧澤「何が!」

大山「UNOしてたの?」

瀧澤「そうだよ?」

大山「…………俺死んだあとだよね?」

瀧澤「あぁ」

大山「……おかしくね?」

瀧澤「何で?」

大山「いやいや、えー?そんな気分になる?友達死んでてUNOする気になる?」

瀧澤「…………ババ抜き?」

大山「いやそういうことじゃないじゃん」

瀧澤「……でもさぁ」

大山「何?」

瀧澤「お前生きてたじゃん」

大山「……それ結果論じゃん!」

瀧澤「しかも犯罪者じゃん!UNOされて当然だよ!」

大山「えー…」

瀧澤「しかもあれだよ!皆からドロフォーカード喰らって16枚くらい山から取るべきだよ!お前のしたこと考えたらさ!」

大山「いや、確かにひどいことしてるけど…趣旨変わってるし…」

瀧澤「……とにかく、加藤が殺されて、俺たちはパニック状態だった…」

大山「…ふふふ。お前らの慌てふためく顔、見物だったぜ…」

瀧澤「しかも町へ繋がる唯一の吊り橋はロープが切られていた…」

大山「そうだろうそうだろう」

瀧澤「BBQも全然盛り上がらなかった…」

大山「……ちょっと待って」

瀧澤「なんだよ」

大山「BBQしたの?」

瀧澤「したよ!お前のせいで全然盛り上がらなかったけどな!」

大山「うん、いや、おかしいじゃん」

瀧澤「何がだよこの快楽殺人者!」

大山「快楽ではないよ。復讐だよ?で、まぁ今それはいいんだよ。どう考えてもBBQするタイミングじゃないよね」

瀧澤「は?タイミング?」

大山「だって人、二人死んでんだよ?友達が二人」

瀧澤「でもさ、炭とか網とか、持って来ちゃったし」

大山「…………」

瀧澤「それにさぁ」

大山「うん?」

瀧澤「実質一人だったわけだし。お前は生きてたわけだし」

大山「だからそれはさぁ…」

瀧澤「ていうかお前なんか焼かれる側だよ!網の上でこんがりいかれたって全然文句言えないぜ?!」

大山「だから趣旨がさぁ!」

瀧澤「お前のせいで肉切るのも大変だったんだぞ!血糊がついちゃってたから!」

大山「……えぇ?!まさか凶器のやつ使ったの?!あの肉切り包丁使ったの?!」

瀧澤「だってあれしか持ってきてないもん!」

大山「そういう問題じゃないだろ!エグいだろ!」

瀧澤「シイタケも生焼けだし…」

大山「いやそれは俺関係ない!お前らのさじ加減だわ!」

瀧澤「関係ないだと?お前に殺された加藤の異名は『炭火の魔術師』だったんだぞ!」

大山「知らねぇよ!加藤がそんな火加減に定評あったの知らないし知ってても殺すし!」

瀧澤「ビールだって全然旨くなかった…」

大山「アルコールはだめでしょ!こういう状況でアルコールは!」

瀧澤「でも、アルコールでも入れなきゃテンション上がらない状況じゃん!」

大山「上げなくていいんだよ!血塗られたキャンプなんだよ?!」

瀧澤「そうしてうたた寝してる間に、山口が薪で殴られ殺された…」

大山「案の定だよ!寝るほど飲むなよ!飲んでも寝るなよ!いや、俺としては好都合だったけどさ!」

瀧澤「そんなこんなで夜は更け…」

大山「山口かわいそくない?そんなこんなで片付けられちゃったよ?」

瀧澤「キャンプファイヤー…」

大山「やっぱりやるのかよ!」

瀧澤「うるせぇよマッドピエロ!」

大山「だから快楽殺人路線やめて!復讐なの!楽しくはなかったの!なんでキャンプファイヤーやっちゃうんだよ…」

瀧澤「そんなの…出し物とかも用意してたし」

大山「そういう問題じゃないこと理解しろよマジで!」

瀧澤「てめぇ…誰のせいでフォークダンスの人数足りなくなっちゃったか分かってんのかよ!」

大山「分かってるけどなんか謝りたくないわ!」

瀧澤「一人余っちゃうんだぞ!」

大山「もう三人だもんな!さびしいキャンプファイヤーだね!」

瀧澤「鈴木もずっと手拍子係で疲れたろうに…」

大山「いや、順番で回せよ!何お前と美佐子ずっと踊ってんだよ!
    ……つーか踊ってんじゃねぇよ!!そんでどうせあれだろ?!さっき山口が殺された薪も火の中くべちゃってんだろ!!」

瀧澤「いや、尻に敷いた」

大山「直接使っちゃった?!くべよう!そこはせめてくべて使お!つーかあんな状況でどんだけ平常心だったんだよお前ら!」

瀧澤「いや、でもさすがに途中で、こんなことしてる場合じゃないって気づいたよ…」

大山「…おっ。いいじゃん。そうだよ、深刻な状況なんだよ」

瀧澤「皆で火を囲んで…話し合ったんだ…」

大山「遅いんだよ?でもいいよ、そういうの欲しかったよ」

瀧澤「つもる話をする内に……酒も進んだ」

大山「また飲んでんのかよ!居酒屋気分で何の話だ!」

瀧澤「いや…そりゃ将来のこととか…」

大山「将来無くなるかもしれない時に?!殺人鬼が潜んでる時に?!すげぇな!お前らの状況把握能力の無さすげぇな!」

瀧澤「まぁそれで眠くなって来て、ロッジに戻って寝てる間に……鈴木が殺された…!」
大山「うん……」

瀧澤「鈴木を……殺しやがって……!」

大山「もうそういうのに説得力がないよ、お前の行動考えたら。でもさ、ちょっと疑問あったんだよね、あれ」

瀧澤「何が!」

大山「いや、鈴木さ……なんであいつ一人だけ野宿だったわけ?俺としてはラッキーと思ったけど…」

瀧澤「それは…お前…」

大山「…………」

瀧澤「……色々あったんだよ」

大山「……あれ?まさかだよ?まさかだけどお前、美佐子と…」

瀧澤「バカやろう!そんなわけないだろ!!あの状況下で……そんなわけないだろう!!」

大山「いや!怪しい!絶対お前美佐子とやってたわ!!」

瀧澤「…………何を言ってるのかわからねぇな」

大山「なんだよお前!美佐子俺の女じゃん!俺死んで大変な時に何してんだよ!」

瀧澤「…………やろうって言ったのは美佐子だよ!!」

大山「美佐子――っ!!お前―――っ!!殺すぞ!!!」

瀧澤「やめろー!」

大山「道理でお前ら鈴木が悲鳴あげてるのに、全然ロッジから出てこないわけだよ!服着るのにモタついてんじゃねぇよ!!」

瀧澤「はぁ?!服?!」

大山「おぉ…なんだよ急に!」

瀧澤「俺達が脱衣でなんかするわけないだろ!」

大山「着たままの方がよりエロいじゃねぇかぁ!!」

瀧澤「…おいエロス!」

大山「なんだよエロス!」

瀧澤「何か勘違いしてるようだな…」

大山「あぁ?」

瀧澤「俺達はやらしいことをしてて遅れたわけじゃない…!」

大山「…もういいって」

瀧澤「UNOがちょうどいいとこだったんだよ!」

大山「UNOかよぉ!!余計残念だよぉ!!そんでUNOなら鈴木も入れてあげなよぉ!!3人の方が絶対楽しいじゃん!!」

瀧澤「いや、鈴木はUNOのルール知らないんだ」

大山「そうなの?!じゃあ鈴木最初からハブじゃん!全員でできるゲームしろよ!
    それがキャンプでの鉄則…………つーかゲームすんじゃねぇぇ!!この状況でよぉぉ!!」

瀧澤「お前忙しそうだな」

大山「うるせぇよ!誰のせいだ!」

瀧澤「…………いや…もとはと言えば、完全にお前が悪いじゃん」

大山「…………うん…いや、そうだけど……」

瀧澤「……殺人とかは駄目だよ。引くよ」

大山「……うるせぇ…俺には…あいつらを殺す立派な動機があるんだ…」

瀧澤「動機?」

大山「お前は知らなかったかもしれないが……俺と殺された三人は、小学校の同級生だったんだ…………」

瀧澤「…………ん?美佐子なに?」

大山「小学校の頃、俺はあいつら三人に酷いイジメにあっていた……」

瀧澤「え?……UNO?今はまずいよー。空気空気!」

大山「俺は小学校卒業を待たずに転校……やつら三人はいつしか俺のことなど忘れやがった……」

瀧澤「え、持ってんの?ポケットに?……ほんとだ!でも…今はさ……じゃあ一回だけだよ?」



大山「大学でたまたま再会した時は、偶然の恐ろしさと残酷さを呪った。
    だけど、もっと残酷だったのは……あいつらが俺のことなど全く覚えておらず……再び俺をいじめ始めたことさ!
    だから俺は……俺は…」

瀧澤「ちょっと美佐子ぉ。これちゃんと切ったー?俺の手札赤しか無いんだけどー!」

大山「聞けやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!UNOを配るなぁぁぁぁぁぁぁ!!くそったれぇぇ!!こうなったら美佐子もお前も殺して……!」

(ブロロロロロロロロロロロ)

大山「なんだ?!ヘリ?!」

瀧澤「救助のヘリコプターだ!ようやくお出ましか!」

大山「なんだと!しかし吊り橋はすでに落ちていたし携帯は圏外……どうやって外部と連絡を?!」

瀧澤「ふふ。このUNO、どこかおかしいと思わないか?」

大山「え……いや、わからんが…」

瀧澤「見ての通り、『S』が二枚に、『0』が一枚足りないのさ!」

大山「……それは見た目じゃわからんが…どういうことだ!」

瀧澤「たしかに橋は落ちたけど…川は麓の村まで繋がっているんだぜ!」

大山「川……はっ!『S』『0』『S』!!その三枚を川に流して、麓に伝えたというわけか!」

瀧澤「そういうことさ!」

大山「味なマネを…!しかし……よくその方法で伝わったな…」

瀧澤「あぁ。その辺は抜かりなく、カードの余白の所に今の状況を事細かに記しておいたからな…」

大山「あぁ…………じゃあ別にSOSのカードじゃなくてもいいんじゃね?!」

瀧澤「…………警察も到着したぞ!観念しろ大山!!」

大山「くそぉ!こうなったら美佐子だけでも道連れだぁぁぁ!!」

瀧澤「大山―!!」

(スパッ)

大山「……いってぇぇぇぇぇぇぇ!!超いってぇぇぇぇ!!」

瀧澤「出た!美佐子の必殺、ドロツーカードで相手の手をスパッてやる、やつ!!」

大山「必殺ならもうちょっと気の利いた名前付けとけよ!」

瀧澤「どうだ大山!ドロツーでスパッてやられると痛いだろ!」

大山「どのカードでも痛いわ!!」

(手錠を掛けられる大山)

大山「…あ、ちょっと手首痛いからあんまりきつく締めないでください…さっきドロツーでやられて…」

瀧澤「大山!」

大山「……なんだよ?」

瀧澤「お前は大馬鹿野郎だ…どんな理由であれ、人を殺すなんて間違ってる…」

大山「何とでも言いやがれ」

瀧澤「面会、行くからな」

大山「来るんじゃねぇ」

瀧澤「行くさ!」

大山「…………UNOならできねぇぞ」

瀧澤「必ず、美佐子と二人で行くよ」

大山「……ちょっとあんまり引っ張らないでくださいって、もう行きますから」

瀧澤「……大山!!」

大山「なんだよ」

瀧澤「あと…これ頼む」

大山「…………なんだこの袋……?」

瀧澤「このキャンプで出たゴミ。ゴミは分担して持ち帰りだから」

大山「……空気を読めよぉぉぉぉ!!」




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