宿直室の夜
(瀧澤、中央で座ってテレビを見ている)
大山「……何見てんの、お前」
瀧澤「ん?お帰り。タイトルわかんないけど、映画」
大山「映画?……うわっ!!なんだよお前、これホラーじゃん」
瀧澤「あれ、お前ってホラー映画ダメなの?」
大山「別にダメじゃねぇよ……うわっ!」
瀧澤「じゃその、うわっ!ってのは何なんだよ」
大山「それはあれだよ……今、知り合いが出てたからびっくりして」
瀧澤「えぇっ!知り合い?!お前、だってこれハリウッドだぞ?!お前ってハリウッドに知り合い居んのかよ」
大山「…まーな」
瀧澤「まじかよすげぇじゃん!あ、じゃあさ、俺映画に出してくれ!」
大山「はぁ?」
瀧澤「ハリウッドに知り合い居るんならさ、コネで俺一人出すくらいどうってことねぇだろ?な?な?!頼むよ!」
大山「怖ぇよ!なんだよ…今のお前が一番怖いわ。だいたいそんなコネあるわけねぇだろ」
瀧澤「なんだダメかー」
大山「ダメだよ、当たり前だろ。嘘だし」
瀧澤「え、嘘なの?じゃあホントは俺出れるの映画?!」
大山「そこじゃねぇよ、知り合いっていうのが嘘なの!」
瀧澤「なんだよー…あー映画出てぇなー」
大山「何、お前俳優とか目指してんの?」
瀧澤「別に。でもなんか俳優ってさ、楽に儲かりそうじゃん?」
大山「うわーお前ハリウッドなめすぎじゃねぇ?」
瀧澤「いや楽勝だろ」
大山「素人はすぐこれだよ。いいかハリウッドはな、一見華やかに見えるけど、実際はすげぇ厳しい世界なんだぞ」
瀧澤「お前はハリウッドの何を知ってんだ?知り合いいるのも嘘だし」
大山「うるせーな。知ってんの俺は。なんかこう裏社会的な繋がりとかさ」
瀧澤「裏社会?」
大山「だからよ、あるだろそういう…裏社会的なアレがいっぱいあんの!」
瀧澤「全然伝わってこない」
大山「…うっせーな。とにかくお前がスターになれるほど、甘くないの」
瀧澤「いやでもね、そう言うけどさ…お前、ブルース・ウィリスって知ってる?」
大山「…知ってるよ。あたりめーじゃん」
瀧澤「あんなにハゲてても、ハリウッドスターになれちゃうんだよ?」
大山「…お前ダイ・ハードとか観てない人?!お前ブルース・ウィリスに謝れ!」
瀧澤「やだよ!なんでハゲに頭下げなきゃいけねーんだよ」
大山「ハゲてない!」
瀧澤「はぁ?」
大山「ハゲてない!ブルースは全然ハゲてねぇよ!」
瀧澤「お前、あいつの仕事はともかく、頭までかばう必要ねぇだろーよ」
大山「うるせーよ!ハゲじゃねぇよ、ブルースは全然ハゲじゃねぇよ!」
瀧澤「お前の方がハゲハゲ言ってんじゃん。とにかくな、俺が本気だしたら、すぐにでもあいつくらいにはなれんの」
大山「ぜったい無理だよ!」
瀧澤「……まぁいいや、見回りどうだった?」
大山「あぁ、異常なし。真っ暗で超怖かったけど」
瀧澤「やっぱ怖ぇんじゃねーかよ」
大山「だって真っ暗じゃん?俺まだ宿直始めて日が浅いからさ。誰も居ない夜の学校って、マジ不気味だよ」
瀧澤「そうかぁ?さっきちょろっと回ってみたけど、俺はただただ懐かしかったな。中学時代思い出してさぁ。あ、ほらアレまだあったじゃん」
大山「アレって?」
瀧澤「体育館裏の柿の木!あのでっかいやつ!」
大山「おー柿の木な!あるある」
瀧澤「俺さっき見つけて、うわまだあんのかよーとか思って。まぁでもそりゃあるか。あんなデカイ木だもんな」
大山「まあな」
瀧澤「いやあれはホント懐かしいよなー。時々授業サボって、あそこ昇ってさ。したらあの木昇ると景色めっちゃいいじゃんか」
大山「…え、昇ったの?授業サボって?」
瀧澤「ん?何お前忘れてんのかよー」
大山「…でもあれ昇っちゃダメだって、先生言ってたよね」
瀧澤「そうだけど、そんなん無視してたじゃん!だって…あ!ほらお前一回頭から落っこちて」
大山「頭から?!そんな記憶ない!」
瀧澤「…は?だってお前その後遺症で、ワキガになったんじゃなかった?」
大山「どんな後遺症だよ!つうかワキガじゃねぇし」
瀧澤「ん?……あ、落っこちたのあれだ、テッチャンだ!」
大山「だろ?俺じゃねぇもん」
瀧澤「あ、そっかそっか、わり」
大山「どんまい……ん、でもおかしくねぇ?」
瀧澤「なにが?あ……そっかおかしいな。じゃあお前なんでワキガなの?」
大山「え、何俺ほんとにワキガなの?」
瀧澤「あ、じゃあ後遺症とか関係なく、わざとワキガなの?」
大山「わざととか出来たら俺凄くねぇ?ていうかわざと出来るなら抑えるよ!むしろ抑える!」
瀧澤「なんだーじゃ素でワキガかー」
大山「ワキガワキガなんだお前は。てかそこじゃねぇよ!そこじゃなくて、なんで俺知らないの?
その、授業サボってとかテッチャン落ちたとか。そんなお前らすげぇ楽しそうなのに、俺なんでしらねぇの?」
瀧澤「あ、だってほら、その頃お前はぶられてたじゃんかー、だからだろ」
大山「ああ…え、俺はぶられてた時とかあったの?」
瀧澤「何言ってんだよはぶられてたじゃんかー。中二の時」
大山「…あーはいはい、中二ね。そうか俺はぶられてたのか。どうりで皆俺が話掛けてんのに無視される率高いなーとか思ってたんだ。
俺さ、自分が物凄く滑舌悪いのかなって、気にしちゃってたからね」
瀧澤「うん。ただお前滑舌も悪かったじゃんかー」
大山「うるせーなさっきから!じゃんかーじゃんかー言いやがって!すげぇ今傷ついてるわ」
瀧澤「まぁまぁまぁまぁ」
大山「誰のせいだよ…」
瀧澤「……あ、そういえばさ、お前この学校の七不思議って知ってる?」
大山「あ?」
瀧澤「七不思議」
大山「知らないよ、無いだろうちの中学に七不思議なんて。初めて聞いたよ」
瀧澤「いや、あるんだって」
大山「ねぇよ。一度も聞いたことないよ」
瀧澤「いや、でも思い出して。ほら、お前…」
大山「あーはぶられたからね。うんそりゃ知らないね……バカなの?もうその話やめろって!つうかね、俺そういうの一切信じてないから」
瀧澤「え、じゃあ何お前幽霊いない派なの?」
大山「いない派だよ。いないよ、あんなの。インチキでしょ」
瀧澤「ばか、いるよ!幽霊はいるよ!」
大山「証拠は?」
瀧澤「……」
大山「ほら何もないんだろ?だからいないんだよ、幽霊なんてのはよ!」
瀧澤「くそー……じゃあさ、もしいたら一万円な!」
大山「は?どういうこと?」
瀧澤「だから俺探すから、すげぇ探すから、もし見つけたらバッチリビデオとかに収めてくっから、したら一万円ね?」
大山「幽霊はバッチリうつんの?バッチリ映っちゃったらそれ多分幽霊じゃないよね」
瀧澤「いいから、幽霊見つけたら一万円な!」
大山「わかったよ……ん、で?七不思議ってのは?」
瀧澤「え、聞きたいの?」
大山「一応聞いてやるよ。お前すごい話したそうじゃんか」
瀧澤「あれーでもぉ大山君てぇそういうの信じてないんじゃなかったっけぇ?」
大山「めんどくせぇよ。いいから早く話せよ」
瀧澤「仕方ねぇな。まず一つ目は、音楽室な」
大山「おぉ…」
瀧澤「お前既にビビッてんじゃん」
大山「ビビッてねーよ!よくあるパターンじゃねぇか」
瀧澤「音楽室って、ほら昔の有名な音楽家の肖像画飾ってあるだろ。夜中に音楽室入って、あれをよーく見ると…」
大山「目が動くんだろ?」
瀧澤「…あれなんで知ってんの?」
大山「知ってるよ。ベタ中のベタでしょ。ベートーベンの目がギロって動くってのは。こりゃ確実にただの噂だな」
瀧澤「あ、いや違うんだよ」
大山「何が?」
瀧澤「メンデルスゾーン」
大山「は?」
瀧澤「うちの学校は、メンデルスゾーンの目が動くの!」
大山「メンデルスゾーン?!」
瀧澤「メンデルスゾーン」
大山「メンデルスゾーン?!」
瀧澤「どう、怖くね?」
大山「……怖くねぇ」
瀧澤「……ん?あ、違うよ?こう絵から抜け出して、人間の生き血を吸うとかそういうレベルじゃないよ?眼動くの。ギラって」
大山「怖くねぇって。てかなんなら生き血を吸う方が怖いだろ」
瀧澤「えー?だってメンデルスゾーンだぞ?」
大山「うんいや、メンデルスゾーンだから怖くないんだよ。顔が浮かばねーもん」
瀧澤「あっ、そうなんだよ……実は俺もメンデルスゾーンの顔が一切浮かばねぇんだよ!」
大山「……なー。じゃあメンデルゾーンには悪いけど、次の不思議に行っちゃおうか」
瀧澤「うん。えっと二つ目は、校長室なんだけど」
大山「校長室?」
瀧澤「うん、うちの校長室って、歴代の校長の肖像画が飾ってあんじゃん」
大山「…おい」
瀧澤「で夜中、校長室に入ると、その肖像画の目がギョロって」
大山「かぶってんじゃん!音楽室のと!」
瀧澤「あ、ホントだ…え、何この偶然…うわ鳥肌…」
大山「立たねぇよ!こんなんで立つか!つーか七不思議で二つかぶっちゃってるってなんだよ!うちの生徒バカじゃねーの!?
で、お前も話す順番考えろ!!せめて最初と最後にするとかしてくれ!
二つ連続で話しちゃったらかぶってんのが気になって、もう校長の目どうでもよくなっちゃうじゃん!」
瀧澤「あーそっか…じゃあ三つ目な」
大山「うん」
瀧澤「これは俺たちが中三の時の話なんだけど…給食室ね」
大山「おお、給食室か」
瀧澤「うん。当時の給食のババア…が超気持ち悪かった」
大山「……」
瀧澤「……」
大山「……それだけかよ!それ怪談じゃねぇよ!ただの感想!」
瀧澤「いや、でも当時の給食のババァはさ……」
大山「だいたい怪談話で当時って限定すんなよ!完全に思い出話じゃねぇか!」
瀧澤「でもでも、お前にとってはもっと怖いぜ?」
大山「なにが?」
瀧澤「その気持ち悪いババア、お前と同じ大山って名字なの!怖くねぇ?!」
大山「大山…」
瀧澤「怖いだろ?鳥肌もんだろ?」
大山「……おい、それうちの母ちゃんじゃねぇかよ!」
瀧澤「え、そうだったの?!…何この偶然(腕をさすって)」
大山「だから鳥肌立たねぇだろ?!偶然でもなんでもねーよ!それうちの母ちゃんだよ。母ちゃん給食の調理員やってたんだよ…」
瀧澤「そっかお前んとこのババアか…なんかごめんな」
大山「え?」.
瀧澤「当時、いじってやれなくてごめん」
大山「そっち?!気持ち悪いって言ったことを謝れよ!つうかババアについても謝って!」
瀧澤「でもー気持ち悪かったのはホントじゃんかー」
大山「じゃんかー口調やめろっつんだよ!!」
瀧澤「で、次四つ目な」
大山「ったく…四つ目はなんだよ?」
瀧澤「四つ目は『トイレの花子』」
大山「……呼び捨てなんだ?」
瀧澤「なにが?」
大山「…いいや、一応続けて」
瀧澤「三階の美術室の奥に、トイレあるだろ…」
大山「あるな」
瀧澤「あそこの、女子トイレの方なんだけど…ふふ」
大山「ん、何笑ってんだよ?」
瀧澤「てかおい、俺ら女子の方とか入っていいのかよー!」
大山「何テンションあがってんの?!今そういう話じゃないだろ!」
瀧澤「…あそっか。まぁいいや、その女子トイレの一番奥の個室」
大山「うん女子は個室しかないけどな」
瀧澤「そこで、夜中の三時に、ドアを47回叩くのね」
大山「…多いなー…」
瀧澤「多いんだよ。でもこれ仕方ねぇんだよ。でもこれさ…47回も叩くの時間かかんじゃん?
その間にさ…ふふ…女子入ってきちゃったらやばくねぇ?俺らエロだと思われるじゃん!」
大山「夜中の三時!そんな時間、誰も女子いない!ていうかお前は気持ちまで中学生に戻ってない?
帰ってきて!二十歳の瀧澤君取り戻して!」
瀧澤「……ごめん、でまぁドア開けたら花子いんのね」
大山「え、そこあっさり言っちゃう?!そこヤマじゃねぇの?!」
瀧澤「いや花子はいつもいんの。それはいつも通り。あんまレアじゃねぇんだよ」
大山「いつもいんの?!じゃあ前フリなげぇよ!お前はもっとペース配分しろ!」
瀧澤「で、で。あ花子だーと思ってふっと顔見たら…」
大山「……」
瀧澤「…気持ち悪い」
大山「…だと思った!だからそれ怪談じゃねぇじゃん!そんでまたかぶってんだよ!給食室とかぶってんの!」
瀧澤「そうなんだよかぶってんの!そこでだよ、俺ちょっと考えたんだけど、両方すげぇ気持ち悪いじゃん?キモい系じゃんか。
だからこれババアと花子はひょっとして…同じ…」
大山「…人じゃねぇよ!それ両方俺の母ちゃんってことだろ?!
なんで俺の母ちゃん昼間給食作って、夜はトイレに潜んでなきゃいけないの?!俺の夕食はいつ作るんだよ?!」
瀧澤「それはまぁボンカレーとかを適当にさ」
大山「うるせぇよ!つーか冷静に考えろよ!なんでうちの母ちゃんは、子供の食事の手間を惜しんでまでトイレに潜んでなきゃいけねーんだよ?!」
瀧澤「過酷な仕事だよな…」
大山「仕事じゃねーよ!誰にメリットがあるんだその仕事!」
瀧澤「……あ!!」
大山「なに?!びっくりしたー…」
瀧澤「俺ちょっとトイレ」
大山「なんだよ…おどかしてんじゃねーよ…」
瀧澤「うんこしてくるけど…皆に言うなよ」
大山「ガキか。皆って誰だよ」
瀧澤「トイレってこっちだよな?」
大山「そうだよ」
大山「…………ったく。何が七不思議だよ。つーかあと3つもあんのか。しんどいわぁ………ん、なんだ?なんか匂うな?」
大山、脇を嗅いでみる。
大山「……うわ俺ワキガじゃん………………」
(プルルルルルルルルル)
大山「うぉっ!!あ、携帯か…なんだこんな夜中に誰だよ……『斎藤』…?え、斎藤?!
もしもし!斎藤?!なんだよーお前久しぶりだなー!え、今バイトだけど平気平気。
俺今西中で宿直のバイトやってんだよ、うん。お前なんか慌ててない?
あ、そうそう!もう一人懐かしい声聞かせてやろうか?今さ、なんと瀧澤来てんの!
トイレ行ってるけどもうすぐ帰ってくるんじゃねぇかな。ちょっとま……ん?斎藤どうした?何パニクってんの?
…………え?事故った?…誰が?…………瀧澤?」
大山「あはははははは!!お前何言ってんだよー!今一緒に居るつってんじゃん!もっと上手いドッキリしろよー……え、高橋から聞いたの?瀧澤が事故って……ついさっき…死んだ?…………え、ちょっと…」
瀧澤「出たーー!!!」
大山「うぎゃーっ!!!」
瀧澤「はぁはぁはぁ……今、出た!ゆ、幽霊!幽霊見た!」
大山「幽霊?!」
瀧澤「幽霊!!廊下の向こう側に、なんか白い女の人が!白い…白衣か?そっか給食室のババアだ!あいつが死んで化けて出たんだ!」
大山「生きてるよ!俺の母ちゃんはバリバリ生きてる!」
瀧澤「え?生きてんの?…でも見たんだよ今!ほんと!これマジなの!」
大山「…うん、わかった。ちょっと一旦その話止めて」
瀧澤「幽霊…」
大山「うん、いま正直そっちの幽霊、興味湧かない。もっと気になっちゃってることがあるから……でもまさかな」
瀧澤「……ん?なんだよ?」
大山「いや、ないな。うん、ないよ。嘘だ。斎藤の嘘だよな」
瀧澤「斎藤?何の話?」
大山「じゃあさ、一応聞くけど……お前今日……車に轢かれた?」
瀧澤「……ん?」
大山「いやだから、今日車に轢かれてバーンって飛んだ?」
瀧澤「…俺が?」
大山「うん」
瀧澤「…………はぁ?」
大山「…あるわけないよなー!」
瀧澤「俺が車に?……ははははっ!」
大山「ないよなー!意味わかんねーよなー!はははは!」
瀧澤「はははは!」
大山「いや違うんだよ、中学の斎藤って覚えてるだろ?クラスで一番背低かった!
あいつがさ、今電話してきて言うんだよ、瀧澤が事故って…さっき死んだんだってー!」
瀧澤「はあ??」
大山「あいつヒマだよなー久々の電話がホラ話って…」
瀧澤「ほんとだよ。俺が今日事故ってなんだよ……そんなの憶えてねーし」
大山「………ん?」
瀧澤「斉藤何してんだよマジで…ははは」
大山「ちょっと待て」
瀧澤「ん?」
大山「…なにそれ?え、憶えてないってなんだよ?」
瀧澤「いやだから、俺さ昨日の夜サークルの飲み会だったんだよ。でオールしちゃってさぁ。
もうベロベロで正直今日のことなんか何も憶えてねぇの。気付いたらなんかここの門の前にいてさぁ。
で、入ってきたらお前に?遭遇?みたいな?」
大山「みたいな?じゃなくて。え、何じゃお前……今日の記憶ないの?」
瀧澤「うん、全く」
大山「……マジかよ」
瀧澤「……何が?」
大山「……お前……本当に死んでんじゃない?」
瀧澤「……え、意味がわかんないんだけど」
大山「……俺だって全然わかんないけど…お前もうこの世のものじゃないんじゃないか?」
瀧澤「……は?だって今ここにいるじゃん」
大山「もしかしたら…これはもしかしたらの話だけどさ……お前はベロベロに酔っ払って、今朝車に轢かれた。でもそれを自分では認識できてない…」
瀧澤「……まさか」
大山「俺、こういうの映画か何かで見た事あるんだよ…実は自分が死んでるのに、本人は全然気付いてないの」
瀧澤「…あ、俺もそれ見たわ。ブルース・ウィリスのやつだよな」
大山「あ、そうだ」
瀧澤「……じゃあ俺は」
大山「……あぁ」
瀧澤「ブルースウィリスくらいにはなれたってことだな」
大山「…………おお」
瀧澤「ほらやっぱりブルースくらいならすぐにでもなれるって言っただろ?」
大山「……うん、今そこじゃねぇよ。そうじゃなくてお前、幽霊なんだぞ?」
瀧澤「俺……幽霊…?」
大山「…………」
瀧澤「やった!」
大山「えぇ?!」
瀧澤「一万円!」
大山「……は?」
瀧澤「約束じゃん、幽霊見つけたら一万円だろ?」
大山「…そうだけど…………えー違くない?」
瀧澤「何が?」
大山「このパターンはなんか…卑怯じゃない?」
瀧澤「卑怯とかねぇよ!」
大山「これは違うじゃーん」
瀧澤「お前……呪うよ?」
大山「わかったよ出すよ一万……お前が言うとすげぇ怖いんだよ…」
瀧澤「よっしゃー!一万円ゲット〜」
大山「てか、なんかお前分かってなくない?お前、死んでんだよ?」
瀧澤「…うん」
大山「悲しくないのかよ?…俺は……悲しいよ」
瀧澤「……」
大山「多分、お前がこうして居られるのって、まだ成仏してないからだろ?成仏しちゃったら…二度と会えねぇんだよ……」
瀧澤「…そっか俺死んでんのか…」
大山「…………」
瀧澤「どうりでうんこも出ないわけだな」
大山「…いや、それはどうだろ」
瀧澤「もっと生きたかったなー」
大山「……」
瀧澤「まぁしょうがねっか!」
大山「うわーかるーい」
瀧澤「くよくよしててもしょうがないだろ。出ないもんは出ないし」
大山「うんこから離れろよ…」
瀧澤「最後にここに来たっていうのは、やっぱなんだかんだ中学の時が一番楽しかったってことなのかもな。
バカなことばっかやってさぁ。まぁ最後まで大して成長しなかったけど」
大山「……」
瀧澤「大山。最後にお前に会えてよかったよ」
大山「…もう、行くのか?」
瀧澤「俺、死んだんだろ?そしたら葬式の準備とか、たくさんあるし」
大山「……いやお前は手伝わなくていいんだぞ。ゆっくり寝てていいんだぞ」
瀧澤「あ、そっか……この一万円は、香典代わりだな」
大山「いや、葬式……絶対行くよ」
瀧澤「そっか。よろしくな……大山」
大山「…ん?」
瀧澤「ワキガ、治せよ」
大山「……治せるものなら、頑張る」
(瀧澤、去っていく)
大山「…………瀧澤……なんで…………」
(プルルルルルルルルル!)
大山「…………もしもし。斎藤?瀧澤なら今……帰ったよ。
でもよ、あいつのことだから、きっとあっちに行っても俺らのことを笑いながら………
………え?間違い?瀧澤じゃなくて…谷沢?柿の木から落ちた?ああ俺それ知らないんだ、ホラ、はぶられてたじゃんか。
しかも死んでない?あ、そうなんだ……
見舞い?いや行かない。うん、ほら俺、あんま仲良くない…っていうかはぶられてたじゃんか。さっきも言ったじゃんか。
うん……はい……はーい」
(大山、電話をしまって立ち尽くす)
大山「…………あ、一万円…」
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